富士市手話言語条例
静岡県富士市は、2022年3月23日、手話についての基本理念を定め、市の責務及び市民等の役割を明らかにし、手話に関する施策を推進することにより、手話を使用することで好奇の目にさらされることや、手話による情報が得られず集団への参加がかなわないといった社会的な障壁によって分け隔てられることがなくなり、全ての市民が共に生きることのできる地域社会が実現することを目的とする「富士市手話言語条例」案を可決した。施行は4月1日。
同種の条例は、県内では、静岡県、富士見市、浜松市、菊川市、掛川市、御前崎市、焼津市、袋井市、磐田市、森町、伊豆市に次いで12例目。全国では、447例目。
市は、2021年11月1日(月)〜3年12月1日(水)まで、パブリックコメントを行い、5人から9件の意見がだされた。
なお、市のウェブページアクセス件数は170件。
意見の反映状況は、反映する(一部反映を含む)0件、既に盛り込み済み0件、今後の参考にするもの8件、反映できないもの1件だった(意見と市の考え方)。
富士市手話言語条例
言語は、互いの感情を理解し合い、知識を蓄え、文化を創造する上で不可欠なものであり、ろう者は、これらを音声言語ではなく手話により行ってきた。
しかしながら、これまで手話が言語として認識されてこなかったことから、ろう者は、意思の疎通、情報の取得等において、多くの不便や不安を感じながら生活してきた。
こうした中、障害者の権利に関する条約において、手話は言語として定義され、国内でも障害者基本法が改正され、手話は言語として位置付けられたが、手話は言語であるとの認識が広く共有されているとはいえない。
そこで、手話が言語であるとの認識に基づき、手話を使用することができる機会を確保し、ろう者が安心して暮らすことができる市を目指し、この条例を制定する。
(目的)
第1条 この条例は、手話に関し、基本理念を定め、市の責務並びに市民及び事業者の役割を明らかにするとともに、手話に関する施策の基本的な事項を定めることにより、ろう者を含む全ての市民が共生することのできる地域社会の実現に寄与することを目的とする。
(定義)
第2条 この条例において「ろう者」とは、聴覚に障害がある者で、手話を言語として日常生活又は社会生活を営むものをいう。
(基本理念)
第3条 手話への理解の促進及び手話の普及は、次に掲げる事項を前提として、全ての市民が相互に人格と個性を尊重することを基本として行わなければならない。
⑴ 手話が独自の体系をもつ言語であること。
⑵ ろう者は、手話による意思疎通を図る権利を有し、その権利は、尊重されなければならないこと。
(市の責務)
第4条 市は、前条に規定する基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、手話を普及し、並びにあらゆる場面での手話による意思疎通並びにろう者の自立した日常生活及び社会参加の機会を保障するため、必要な施策を講ずるものとする。
(市民の役割)
第5条 市民は、地域社会で共に暮らす一員として、手話への理解を深め、ろう者が暮らしやすい地域社会の実現に寄与するよう努めるものとする。
2 ろう者は、市の施策に協力するとともに、手話の意義及び基本理念に対する理解の促進並びに手話の普及に努めるものとする。
(事業者の役割)
第6条 事業者は、ろう者が利用しやすいサービスの提供及びろう者が働きやすい環境の整備に努めるものとする。
(施策の推進)
第7条 市は、手話に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、障害者基本法(昭和45年法律第84号)第11条第3項の規定により策定する富士市障害者計画に、次に掲げる施策について定めるものとする。
⑴ 手話が言語であることの啓発活動、手話による意思疎通に関する広報活動その他の手話に対する理解を深めるための施策
⑵ 手話による意思疎通の機会の拡大、手話による情報取得の機会の拡大その他の手話を使用しやすい環境の構築を図るための施策
⑶ 手話を学ぶ機会の提供、手話通訳者の処遇への配慮その他の手話による意思疎通支援者を確保するための施策
⑷ 前各号に掲げるもののほか、市長が必要と認める施策
第8条 市は、前条に規定する施策を推進するための方針(以下「施策の推進方針」という。)を策定するものとする。
2 施策の推進方針の策定、施策の実施状況の点検又は施策の推進方針の見直しを行うときは、ろう者、学識経験者その他市長が必要と認める者から意見を聴取するものとする。
3 市長は、毎年度、施策の実施状況を公表するものとする。
(学校における理解の促進)
第9条 市は、学校教育の場において、基本理念にのっとり、手話について学び、又は触れる機会を通じて、手話への理解の促進に努めるものとする。
(財政措置)
第10条 市は、手話に関する施策を推進するため、必要な財政措置を講ずるものとする。
(委任)
第11条 この条例の施行に関し必要な事項は、市長が別に定める。
附 則
この条例は、令和4年4月1日から施行する。
富士市手話言語条例逐条解説
前文
言語は、互いの感情を理解し合い、知識を蓄え、文化を創造する上で不可欠なものであり、ろう者は、これらを音声言語ではなく手話により行ってきた。
しかしながら、これまで手話が言語として認識されてこなかったことから、ろう者は、意思の疎通、情報の取得等において、多くの不便や不安を感じながら生活してきた。
こうした中、障害者の権利に関する条約において、手話は言語として定義され、国内でも障害者基本法が改正され、手話は言語として位置付けられたが、手話は言語であるとの認識が広く共有されているとはいえない。
そこで、手話が言語であるとの認識に基づき、手話を使用することができる機会を確保し、ろう者が安心して暮らすことができる市を目指し、この条例を制定する。
【解説】
前文では、富士市手話言語条例を制定するに至った経緯と趣旨を説明しています。
手話は、ろう者にとって、意思疎通を図り、知識を蓄積し文化を創造するための必要な言語として、大切に育まれ、受け継がれてきました。
しかし、これまで、手話が言語として認められず、手話の使用に制限があり、ろう者は、多くの不便や不安を感じながら生活していた歴史があります。
こうした経緯の中、平成18年に国際連合総会において「障害者の権利に関する条約」が採決され、手話が言語に含まれることが明記されました。
その後、平成23年に障害者基本法が改正され、手話が言語として位置付けられました。また、平成28年には、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律が施行されたことにより、障害のある人たちに対する差別が解消されるとともに合理的配慮がなされることにより、人権が守られ、より一層の社会参加が促進されることが期待されています。
このような状況を踏まえ、富士市手話言語条例は、手話は言語であるとの認識に基づき全ての市民が手話への理解を深め、共に支え合う地域社会を目指すことを目的とし制
定するものです。
(目的)
第1条 この条例は、手話に関し、基本理念を定め、市の責務並びに市民及び事業者の役割を明らかにするとともに、手話に関する施策の基本的な事項を定めることにより、ろう者を含む全ての市民が共生することのできる地域社会の実現に寄与することを目的とする。
【解説】
第1条は、本条例の内容を包括的に示すとともに、条例制定の目的を定めています。
手話についての基本理念を定め、市の責務及び市民等の役割を明らかにし、手話に関する施策を推進することにより、手話を使用することで好奇の目にさらされることや、手話による情報が得られず集団への参加がかなわないといった社会的な障壁によって分け隔てられることがなくなり、全ての市民が共に生きることのできる地域社会が実現することを、本条例の目的としています。
(定義)
第2条 この条例において「ろう者」とは、聴覚に障害がある者で、手話を言語として日常生活又は社会生活を営むものをいう。
【解説】
第2条は、この条例中の用語について、その意味を定めています。
ろう者とは聴覚障害者の全てを指すのではなく、音声言語によらず手話によって日常生活又は社会生活を営む者をいいます。
(基本理念)
第3条 手話への理解の促進及び手話の普及は、次に掲げる事項を前提として、全ての市民が相互に人格と個性を尊重することを基本として行わなければならない。
⑴ 手話が独自の体系をもつ言語であること。
⑵ ろう者は、手話による意思疎通を図る権利を有し、その権利は、尊重されなければならないこと。
【解説】
第3条は、この条例の基本理念について、定めています。
@手話が言語であるということ、Aろう者は、手話により意思疎通を図る権利を有し、その権利は尊重されなければならないということを前提として、全ての市民が相互に人格と個性を尊重することを基本として、手話への理解の促進及び手話の普及は行われなければならないと定めています。
(市の責務)
第4条 市は、前条に規定する基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、手話を普及し、並びにあらゆる場面での手話による意思疎通並びにろう者の自立した日常生活及び社会参加の機会を保障するため、必要な施策を講ずるものとする。
【解説】
第4条は、市の責務について定めています。
市では、@手話の普及、Aあらゆる場面での手話による意思疎通の保障、Bろう者の自立した日常生活及び社会参加の機会の保障のため、必要な施策を講じていきます。
現在、手話通訳者の派遣、手話奉仕員養成講座の開催、成人式の手話通訳、市長の定例記者会見の同時手話通訳を実施していますが、今後も施策を充実させていきます。
(市民の役割)
第5条 市民は、地域社会で共に暮らす一員として、手話への理解を深め、ろう者が暮らしやすい地域社会の実現に寄与するよう努めるものとする。
2 ろう者は、市の施策に協力するとともに、手話の意義及び基本理念に対する理解の促進並びに手話の普及に努めるものとする。
【解説】
第5条は、市民の役割について定めています。
第1項では、市民一人一人が社会の一員として、手話に関心を寄せ、理解しようとし、ろう者と交流することで、ろう者が暮らしやすい地域社会の実現に寄与するよう努めるものとしています。
第2項では、ろう者自身も、ろう者にとっての手話とは何かについての理解を広めるよう努めるものとしています。
(事業者の役割)
第6条 事業者は、ろう者が利用しやすいサービスの提供及びろう者が働きやすい環境の整備に努めるものとする。
【解説】
第6条は、事業者の基本的な役割について定めています。
事業者は、サービス利用者としてのろう者と被雇用者としてのろう者の双方に対して、ろう者であることによる情報不足や不当な差別等が起こらないよう配慮するよう努めることとしています。
(施策の推進)
第7条 市は、手話に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、障害者基本法(昭和45年法律第84号)第11条第3項の規定により策定する富士市障害者計画に、次に掲げる施策について定めるものとする。
⑴ 手話が言語であることの啓発活動、手話による意思疎通に関する広報活動その他の手話に対する理解を深めるための施策
⑵ 手話による意思疎通の機会の拡大、手話による情報取得の機会の拡大その他の手話を使用しやすい環境の構築を図るための施策
⑶ 手話を学ぶ機会の提供、手話通訳者の処遇への配慮その他の手話による意思疎通支援者を確保するための施策
⑷ 前各号に掲げるもののほか、市長が必要と認める施策
【解説】
第7条及び第8条は、施策の推進について規定しています。そのうち、第7条では、手話に関し富士市障害者計画に定める施策の項目について定めています。
第1号には、一人でも多くの市民が手話への理解を深めることができるようになるための施策を挙げています。
第2号には、手話を使用しやすい環境の構築のための施策を挙げています。
第3号には、手話通訳者のほか、手話による意思疎通を支援できる者を確保するための施策を挙げています。
第4号には、前各項に掲げるもののほか、市長が必要と認められる施策を挙げています。
第8条 市は、前条に規定する施策を推進するための方針(以下「施策の推進方針」という。)を策定するものとする。
2 施策の推進方針の策定、施策の実施状況の点検又は施策の推進方針の見直しを行うときは、ろう者、学識経験者その他市長が必要と認める者から意見を聴取するものとする。
3 市長は、毎年度、施策の実施状況を公表するものとする。
【解説】
第8条では、第7条に掲げた施策の推進方法について定めています。
第1項では、市は、第7条各号に掲げた施策を推進するための方針を策定するものとしています。
第2項では、施策の推進方針を策定するとき、施策の実施状況を点検するとき又は施策の推進方針を見直すときは、市は、ろう者、学識経験者等から意見を聴取するものとしています。
第3項では、施策の実施状況について、毎年度、公表することとしています。
(学校における理解の促進)
第9条 市は、学校教育の場において、基本理念にのっとり、手話について学び、又は触れる機会を通じて、手話への理解の促進に努めるものとする。
【解説】
第9条は、学校における理解の促進について、定めています。
手話への理解を広げるためには、学校における取組が不可欠であり、児童・生徒が手話に接し、親しむ機会の提供等に努めることとしています。
(財政措置)
第10条 市は、手話に関する施策を推進するため、必要な財政措置を講ずるものとする。
【解説】
第10条は、財政措置について、定めています。
市は、手話が言語であるという理念に基づき、その理解及び普及の促進を図るために必要な財政措置を講ずることとしています。
(委任)
第11条 この条例の施行に関し必要な事項は、市長が別に定める。
【解説】
第11条は、この条例の規定以外に施行に関して必要な事項は別に定めることを規定する委任規定です。
この条例は、令和4年4月1日から施行する予定です。