「手話言語条例」可決成立 東京都議会

 

 

 

 

 

 

 

 東京都議会は、2022年615日、手話が使用しやすい環境をつくり、聴覚障害者らが安心して生活できる共生社会の実現を目指す議員提案の「手話言語条例」を全会一致で可決した。施行は9月1日。

 

条例は、手話を独自の文法を持つ1つの言語と位置づけ、乳幼児からの切れ目ない習得環境の整備などを盛り込んだのが特徴。

 

提案された条例案は、超党派の議員で作るワーキングチーム(WT)が2021年から約7カ月間、当事者との意見交換をするなどして、検討してきたもので、5会派と無所属を含め、126人全議員で条例案を共同提案する形をとった。全議員で共同提案するのは初めて。

 

チームの座長を務める自民党の小宮安里議員は条例の可決成立後、「要望をいただいてきた皆様の期待に沿える内容になった」と振り返った。

 

 また、小宮議員は条例案の提案にあたって「手話は独自の文法を持つ一つの言語だ」「手話を必要とする人の意思疎通を行う権利が尊重され、安心して生活することができる共生社会を実現するため提案する」などと話していた。

 

 小池都知事は条例が成立したことを受け、「誰もが輝くという点について、より深みを増せる条例になった」と評価したうえで、都として障がいがある人も活躍できるような舞台を確保していきたいと話した。

 

 条例には、手話を必要とする幼児や児童、生徒が学校で手話を習得するための支援が盛り込まれたが、条例制定を要望してきた都聴覚障害者連盟の越智大輔事務局長は「子どもたちが手話を言語として自然に身につける機会が増える。時間はかかったが、非常にうれしい」と話した。

 

 同WTは今後も議論を続け、聴覚障害者だけでなく、すべての障害者が意思疎通する機会の確保を進める「情報・コミュニケーション条例」の制定をめざすという。

 

同種の条例は、東京都では、江戸川区荒川区豊島区足立区墨田区葛飾区板橋港区江東区中野区台東区北区新宿区大田区府中市渋谷区品川区についで18例目、全国では453例目

 

 現在、都内には身体障害者手帳の交付を受けている人が約48万8千人、愛の手帳(知的障害者・児を対象)の交付を受けている人が約9万1千人、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている人が約11万8千人いる(2019(平成31)年3月末現在)。

 

 

 

 

東京都手話言語条例

 

 手話は、物の名前や抽象的な概念等を手指の動きや表情を使って視覚的に表現する独自の文法を持つ一つの言語であって、豊かな人間性をかん涵養し、知的かつ心豊かな生活を送るための言語活動の文化的所産である。

 

 障害者の権利に関する条約では、言語は音声言語及び手話その他の形態の非音声言語をいうとされ、障害者基本法でも、手話が言語に含まれることが明記されている。

 

 一方で、我が国では、過去の一時期にろう学校で手話の使用が事実上禁止されるなど、手話の使用について様々な制約を受けてきた歴史があり、手話が言語であることに対する理解が十分であるとは言えない。

 

 こうした認識の下、手話を必要とする様々な世代の人々が、個々の特性に応じて言語として手話を獲得し、手話で学び、手話を学び、手話を使い、手話を守ることができる環境づくりを推進する必要がある。

 

 ろう者、難聴者、中途失聴者など手話を必要とする者の意思疎通を行う権利が尊重され、安心して生活することができる共生社会の実現を目指し、この条例を制定する。

 

(目的)

第1条 この条例は、手話が独自の文法を持つ一つの言語であるという認識の下、手話に対する理解の促進及び手話の普及に関する基本理念を定め、東京都(以下「都」という。)の責務並びに都民及び事業者の役割を明らかにするとともに、都の施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な基本的事項を定め、もってろう者、難聴者、中途失聴者など手話を必要とする者(以下「手話を必要とする者」という。)の意思疎通を行う権利が尊重され、安心して生活することができる共生社会の実現に寄与することを目的とする。

 

(基本理念)

第2条 手話に対する理解の促進及び手話の普及は、手話が独自の文法を持つ一つの言語であるという認識の下、一人一人が相互に人格と個性を尊重し合いながら、社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参画する機会が確保される共生社会の実現を旨として行われなければならない。

 

(都の責務)

第3条 都は、この条例の目的を達成するため、前条の基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、手話を必要とする者の意思疎通を行う権利を尊重し、特別区及び市町村(以下「区市町村」という。)その他の関係機関と連携して、手話に対する理解の促進、手話の普及その他の手話を使用しやすい環境の整備を行うものとする。

2 都は、手話を必要とする者が都政に関する情報を速やかに取得することができるよう、手話を用いた情報発信を行うものとする。

 

(都民及び事業者の役割)

第4条 都民及び事業者は、この条例の目的及び基本理念について理解を深めるよう努めるものとする。

 

(施策の推進)

第5条 都は、基本理念にのっとり、手話を使用しやすい環境を整備するために必要な施策を総合的かつ計画的に推進するものとする。

 

(学習機会の確保等)

第6条 都は、都民及び事業者が手話を学習する機会を確保するよう努めるものとする。

2 都は、東京都職員が手話に関する理解を深め、手話を学習することができるよう、環境の整備に努めるものとする。

 

(相談支援体制の整備及び拡充)

第7条 都は、区市町村その他の関係機関と連携して、乳幼児期からの切れ目ない相談支援体制の整備及び拡充に努めるものとする。

 

(手話通訳者の派遣のための人材確保、養成等)

第8条 都は、手話を必要とする者が手話通訳者の派遣等による意思疎通を図るための支援を受けられるよう、区市町村その他の関係機関と連携して、手話通訳者及びその指導者の確保、養成並びに手話技術及び専門性の向上に努めるものとする。

 

(事業者への支援)

第9条 都は、事業者が行う、手話を必要とする者が働きやすい環境を整備するための取組に対して、必要な支援を行うよう努めるものとする。

 

(学校における支援)

第10条 都は、手話を必要とする幼児、児童又は生徒が通う学校において、個々の特性に応じて手話を獲得し、手話を学び、手話で学ぶことができるよう、次に掲げる措置を講ずるよう努めるものとする。

 一 乳幼児期から手話を獲得し、又は習得するための切れ目ない学習環境を整備すること。

 二 教員その他の手話の獲得又は習得を支援する者(以下この号において「教員等」という。)に対し、手話に関する理解を深め、手話を習得し、技能を向上させるための研修を実施するなど、手話に通じた教員等の確保のために必要な支援を行うこと。

 三 手話を必要とする乳幼児、児童又は生徒の保護者等(保護者、祖父母、兄弟姉妹その他の生活を共にする者をいう。)に対し、手話に関する学習の機会を提供するとともに、教育に関する相談を受けるための環境を整備すること。

 

(医療等サービスにおける環境整備)

第11条 都は、医療、介護、保健又は福祉に係るサービスを提供する者が行う、手話を必要とする者がサービスを利用しやすい環境を整備するための取組に対して、必要な施策を講ずるよう努めるものとする。

 

(手話の普及啓発)

第12条 都は、手話に対する理解の促進及び手話の普及のための啓発活動を行うよう努めるものとする。

 

(手話に関する調査研究等)

第13条 都は、手話の発展に資するため、大学等と連携して、調査研究の推進及びその成果の普及を支援するよう努めるものとする。</strong>

 

(災害時における措置)

第14条 都は、災害その他の非常事態において、手話を必要とする者が必要な情報を迅速かつ的確に取得し、円滑に意思疎通を図ることができるよう、区市町村その他の関係機関と連携して、必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

 

(財政上の措置)

第15条 都は、手話に関する施策を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。

 

附則

(施行期日)

1 この条例は、令和4年9月1日から施行する。

 

(検討)

2 この条例の施行後3年を経過した場合において、この条例の施行の状況及び手話を取り巻く状況等について検討し、時代の要請に適合するものとするために、必要な措置を講ずるものとする。

3 前項の検討を行うに当たっては、手話を必要とする者その他関係者の意見を反映させるため、これらの者の意見を聴く機会を設けるものとする。

 

(提案理由)

 

手話が独自の文法を持つ一つの言語であるという認識の下、手話を使用しやすい環境づくりを推進することにより、手話を必要とする者の意思疎通を行う権利が尊重され、安心して生活することができる共生社会を実現する必要がある。

 

 

 

 

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