山梨県議会は2023年3月16日、「手話を言語として認め、理解と普及を推進することを目的とした議員提案の手話言語条例を全会一致で可決した。

 

提案理由=全ての県民が、手話言語に対する理解を深め、障害の特性に応じた意思疎通を行う権利を尊重し、障害の有無にかかわらず社会を構成する対等な一員として、安心して暮らすことのできる共生社会を実現するための施策の基本となる事項を定める必要がある。

 

同日の傍聴席には山梨県聴覚障害者協会などの関係者50人余りが詰めかけ、閉会後、関係者らは県議会議事堂の前で横断幕を広げ、条例の成立を祝った。

 

山梨県聴覚障害者協会 小佐野松雄理事長は、「本当にうれしく思っています。障害の有無にかかわらず、共に生きる社会を目指してほしいと思います」と話した。

 

山梨県手話言語条例はするもので、9月23日の国連「手話言語の国際デー」を「やまなし手話言語の日」に制定するなどしている。

 

同種の条例は、都道府県レベルでは2013年の鳥取県を皮切りに、すでに34自治体で成立している。

 

県内では、川三郷町上野原市についで3例目。全国では47例目

 

 県は、2023年220日から32日まで「山梨県手話言語条例」(素案)に対する県民意見の募集を行い、59人から123件の意見が出さた(意見考え方)。

 

 

山梨県内の身体障害者手帳交付者数は、34,289人。そのうち聴覚障害の方は3,171人(2022年331日現在)。

 

条例制定にともなう施策は、条例の規定に基づき、今後、聴覚障害者関係団体の意見も聞きながら作成する。

 

 

手話言語条例概要

 

 

山梨県手話言語条例

 

本県は、第二次世界大戦後まもなく、県立盲学校において我が国で初めて盲ろう教育が実践された歴史を有し、また、盲ろう者でありながら障害者の教育や福祉の発展に尽くしたヘレン・ケラー女史が通学した米国のパーキンス盲学校の校長が県立盲学校を訪問するなど、国内における盲ろう教育の先駆的役割を果たしてきた。

また、近年においては、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律及び障害を理由とする不当な差別的取扱いの禁止や社会的障壁の除去のための合理的な配慮の提供を定めた山梨県障害者幸住条例に基づき、全ての障害者が、自らの意思によって社会経済活動に参加し、自立した地域生活を営めるよう、様々な社会的障壁を取り除く取組が進められてきた。

しかしながら、日常生活又は社会生活の基礎となる意思疎通において、ろう者が、自らの障害の特性に応じた意思疎通を図る権利が尊重され、手話、触手話等を利用する機会が十分に確保されているとはいえず、日常生活を営む上での困難を抱えている人は少なくない。

とりわけ、ろう教育において読唇と発声の訓練を中心とする口話教育が導入されたことにより、長年にわたり手話が言語として認められてこなかったことなどから、ろう者が多くの困難を抱えて生活してきた歴史がある。

このような状況の中、我が国では、障害者基本法の改正や障害者の権利に関する条約の批准により、手話が言語であると位置付けられ、県においても、山梨県障害者幸住条例の改正により、言語に手話を含むことを明記した。

手話言語が、ろう者にとって物事を考え、互いの感情を伝え合い、知識を蓄え、文化を創造する手段であることを私たちは認識するとともに、手話言語を必要とする様々な人々が、個々の特性に応じて手話言語を学び、手話言語を使い、手話言語で学び、手話言語を守ることができる環境が整備されることによって、ろう者一人一人の人格と個性が尊重され、相互に意思を伝え合い、心を通わせ、理解し合える社会を構築する必要性が一層高まってきている。

こうした経過を踏まえ、全ての県民が、手話言語に対する理解を深め、障害の特性に応じた意思疎通を行う権利を尊重し、障害のある人もない人も、社会を構成する対等な一員として、安心して暮らすことのできる共生社会の実現を目指して、この条例を制定する。

 

(目的)

第1条 この条例は、手話言語の理解及び普及並びに習得の機会の確保並びに障害の特性に応じた意思疎通手段の利用の促進(以下「手話言語の理解及び普及等」という。)に関し、基本理念を定め、県の責務並びに県民及び事業者の役割を明らかにするとともに、手話言語の理解及び普及等に関する施策の基本的事項を定めることにより総合的に施策を推進し、もって手話言語に対する県民の理解の促進を図るとともに、全ての県民が障害の有無にかかわらず社会の対等な構成員として安心して暮らすことのできる共生社会の実現に寄与することを目的とする。

 

(定義)

第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

1 手話言語 ろう者が、自ら生活を営むために使用している独自の言語体系を持つ言語をいう。

2 ろう者 聴覚に障害のある者であって、手話言語を使用して日常生活又は社会生活を営むものをいう。

3 ろう児等 聴覚に障害のある者のうち、手話言語の使用又は習得を必要とする乳幼児、児童、生徒又は学生をいう。

4 手話言語通訳者等 手話言語の通訳を行う者、盲ろう通訳介助者その他のろう者とろう者以外の者との意思疎通を支援する者をいう。

 

(基本理念)

第3条 手話言語の理解及び普及等は、手話言語によって意思疎通を行うろう者の権利を尊重し、全ての県民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合うことが重要であるとの認識の下に行われなければならない。

2 手話言語の理解及び普及等は、手話言語が独自の体系を有する言語であって、ろう者が日常生活又は社会生活を営むために大切に受け継いできた文化的所産であるとの認識の下に行われなければならない。

3 手話言語の理解及び普及等は、手話言語がろう者はもとより、ろう者以外の者にとっても、情報を取得し、その意思を表示し、及び他人との意思疎通を図るために必要なものであるという認識の下に推進されなければならない。

4 手話言語の理解及び普及等は、県、県民及び事業者がそれぞれその果たすべき役割を認識し、相互に協力しながら一体的に取り組まれなければならない。

 

(県の責務)

第4条 県は、前条に定める基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、手話言語の理解及び普及等に関する施策を総合的に策定するとともに、市町村その他の関係機関及び関係団体(以下「市町村等」という。)と連携して、手話言語を使用しやすい環境の整備を推進する責務を有する。

2 県は、手話言語の理解及び普及等に関する施策を講ずるに当たっては、市町村との連携を図るとともに、市町村が手話言語の理解及び普及等に関する施策の実施に関する助言その他の必要な協力を行うよう努めるものとする。

3 県は、その事務又は事業を行うに当たり、手話言語を必要とする者が県政に関する情報を速やかに取得することができるよう手話言語を用いた情報発信を行う等、必要かつ合理的な配慮をしなければならない。

 

(県民の役割)

第5条 県民は、基本理念にのっとり、手話言語が独自の体系を有する言語であることを認識し、県が実施する手話言語の理解及び普及等に関する施策に協力するよう努めるものとする。

 

(事業者の役割)

第6条 事業者は、基本理念にのっとり、県が実施する手話言語の理解及び普及等に関する施策に協力するよう努めるものとする。

2 事業者は、その事業を行うに当たり、ろう者に対してサービスを提供するとき又はろう者を雇用するときは、手話言語の使用による意思疎通に関して、必要かつ合理的な配慮を行うよう努めるものとする。

 

(施策の策定及び推進)

第7条 県は、障害者基本法(昭和45年法律第84号)第11条第2項の規定により策定する障害者のための施策に関する基本的な計画において、手話言語の理解及び普及等を図るために必要な次に掲げる事項を定め、これを総合的かつ計画的に推進するものとする。

(1)手話言語の理解の促進及び普及等のための施策に関する事項

(2)手話言語による情報の取得のための施策に関する事項

(3)手話言語による意思疎通の支援のための施策に関する事項

(4)前3号に掲げるもののほか、この条例の目的の実現を図るために必要な施策に関する事項

2 県は、前項各号の施策を推進するため、関係団体との間において、情報及び意見の交換を行うものとする。

 

(県民の理解の促進)

第8条 県は、市町村等、ろう者及び手話言語通訳者等と連携し、県民が手話言語の重要性に対する理解を深めることができるよう、手話言語についての理解の促進に努めるものとする。

 

(やまなし手話言語の日)

第9条 県民の間に広く手話言語についての理解と関心を深めるようにするため、やまなし手話言語の日を設ける。

2 やまなし手話言語の日は、9月23日とする。

3 県は、やまなし手話言語の日の趣旨にふさわしい事業を実施するように努めるものとする。

 

(情報の発信、相談及び意思疎通の支援体制の整備等)

第10条 県は、ろう者が県政に関する情報を円滑に取得できるよう、手話言語を用いた情報発信を行うよう努めるものとする。

2 県は、災害その他非常の事態において、ろう者が必要な情報を速やかに取得し、円滑に他人との意思疎通を図ることができるよう、市町村等と連携して必要な措置を講ずるものとする。

3 県は、ろう者が手話言語をいつでも使用し、手話言語による情報を入手することができる環境の整備を図るため、手話言語通訳者の派遣、ろう者からの相談に応ずる拠点への支援等を行うものとする。

4 県は、市町村等と連携し、ろう児等又はその保護者若しくはその家族に対して、手話言語に関する情報の提供、相談、訓練その他必要な支援を行う体制の整備を行うものとする。

5 県は、ろう者が医療、介護、保健又は福祉に係るサービスを利用するに当たり、当該サービスを提供する者と円滑な意思疎通を図ることができる環境を整備するよう努めるものとする。

 

(手話言語通訳者等の確保、養成等)

第11条 県は、市町村等と協力し、ろう者が手話言語通訳者等の派遣による意思疎通の支援を受けることができる体制を確保するため、手話言語通訳者等及びその指導者の確保、養成及び資質の向上を図るものとする。

2 県は、市町村等と協力し、手話言語通訳者等の心身の健康に配慮し、業務の特性に応じた健康診断を定期的に実施する等の健康の保持及び増進に必要な対策を講ずるよう努めるものとする。

3 県は、手話言語通訳者等が安心して働くことができる労働環境が整備されるよ

う、事業者の理解の促進に努めるものとする。

 

(学校等の設置者の取組)

第12条 学校等(学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に規定する学校(大学及び高等専門学校を除く。)、就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律(平成18年法律第77号)第2条第7項に規定す幼保連携型認定こども園及び児童福祉法(昭和22年法律第164号)第39条第1項に規定する保育所をいう。以下同じ。)の設置者は、手話言語の理解及び普及等に対する児童、生徒又は幼児及び保護者の理解の促進に努めるものとする。

2 ろう児等が通園し、又は通学する学校等の設置者は、ろう児等に対する手話言語に関する学習の機会の提供及びろう児等の保護者からの教育に関する相談への対応その他の支援を行うよう努めるものとする。

3 ろう児等が通園し、又は通学する学校等の設置者は、ろう児等がその特性に応じた手話言語を学び、又は手話言語を用いて学ぶことができるよう、教職員の手話言語に関する技能を向上させる等の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

4 ろう児等が通園し、又は通学する学校等の設置者は、教職員の手話言語の専門性の向上に関する研修、情報の提供等を行うよう努めるものとする。

 

(事業者に対する支援等)

第13条 県は、ろう者が利用しやすいサービスの提供及びろう者が働きやすい環境の整備のために、事業者が行う取組について、必要な支援及び助言その他の協力を行うものとする。

 

(ろう者による普及啓発)

第14条 ろう者及びろう者が組織する団体は、手話言語の普及及び啓発に努めるものとする。

 

(手話言語に関する調査研究)

第15条 県は、ろう者及び手話言語通訳者等が手話言語の発展に資するために行う手話言語に関する調査研究及びその成果の普及に当たり、教育研究機関と連携し協力するものとする。

 

(財政上の措置)

第16条 県は、手話言語の理解及び普及等に関する施策を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。

 

附則

(施行期日)

第1条 この条例は、公布の日から施行する。

(検討)

第2条 この条例の規定については、この条例の施行の状況等を勘案し、必要があると認めるときは検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

2 前項の検討を行うに当たっては、手話言語を必要とする者その他関係者の意見を聴く機会を設けるものとする。

 

 

山梨県手話言語条例

 

 

 

 

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