福岡県議会は2023年3月20日の定例会最終本会議で、「耳の不自由な人が安心して生活できるよう手話を言語と位置づけ、普及を図る」福岡手話言語条例案を可決した。施行は41日。

 

(提案理由)

 ろう者が手話を使い日常生活や社会生活を安心して営むことができる社会の実現に寄与するため、手話が言語であるという認識の下、手話の普及その他の手話を使用しやすい環境の整備に関する基本理念を定め、県の責務並びに市町村、県民及び事業者の役割を明らかにするとともに、県の施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な基本的事項を定めるもの。

 

条例では、聴覚に障害がある人が安心して生活できる共生社会の実現を目指して、手話を言語の1つと位置づけ普及を図るとしていて、具体的には、県は、耳の不自由な人が乳幼児のころから家族とともに手話を学ぶことができる機会を確保するほか、切れ目のない相談支援体制を整備するとしている。

 

また、手話への理解促進を図るため啓発活動を行い、県民が手話を学ぶ機会も確保するとともに、なり手不足が課題となっている手話通訳者やその指導者の養成に取り組む。同時に、 幼いころから手話に触れる機会をつくるため、聞こえない、聞こえにくい乳幼児とその家族が手話を学ぶ教室を県内4カ所で、月に1回程度開く。さらに保育所などに出向き、聞こえない、聞こえにくい乳幼児との関わり方について、職員の相談を言語聴覚士などが受け付ける体制も作る予定。

 

このほか、ビデオ通話を使い、別の場所にいる手話通訳者とろう者をつなぐ遠隔手話サービスを広める。

 

かつて、ろう者の意思疎通手段として欠かせない手話は、かつて言語と認められず使用が禁止されていた。その手話を言語と位置づける「手話言語条例」を制定する動きが全国に広がっており、すでに35の都道府県で制定されており、福岡県は36例目。県内では直方市朝倉市川崎町添田町福智町大任町赤村香春町田川市糸田町飯塚市豊前市に次いで13例目。全国では475例目

 

 20167月には、33道府県が参加して「手話を広める知事の会」が設立されたが、福岡が加入したのは201710月で一番遅かった。

 

 県議会ではこれまで、議員提出条例案として動きがあったが、成立には至らなかった。202110月の県議会で、条例制定への考えを問われた際、服部誠太郎知事は「国会に提出されている手話言語法案の審議を注視していく」と答えた。ただ、衆議院が解なお、散され法案が審議未了で廃案になったことを受け、県議会で提出することを決めたという。 

 

社会福祉法人福岡県聴覚障害者協会の大沢五恵理事長は、「手話は、最近放映されたドラマの影響で少し認知されるようになったが、これまで知られる機会は少なかった。今後、条例が当事者だけのものではなく、県民が手話や聞こえないことへの理解を深められるものとなってほしい」とコメントした。

 

なお県は、条例案について2023年1月6日から月15日までの間、パブリックコメントをおこない、その結果、74件の意見の出された(意見に対する県の対応

 

福岡県内の聴覚障がいを理由とする身体障害者手帳所持者は、19,347人(2022年3月31日現在)。日常的に手話を使用するろう者の数は県は把握していない。

 

〇条例制定に伴う施策と予算額は以下の通り。

 

(施策)

・乳幼児期から手話を学ぶための親子教室の開催

・保育所等の職員に対し、ろう児との関わり方に係る個別巡回相談を実施

・手話通訳士、手話通訳者等を養成するための研修の開催

 

(予算額)  20,934千円

 

福岡県手話言語条例

 

福岡県手話言語条例 [PDFファイル/161KB]

 

福岡県手話言語条例(るびあり) [PDFファイル/323KB]

 

 

きこえない・きこえにくい方が手話を使い、日常生活や社会生活を安心して営むことができる社会の実現を目指します

 

 県では、ろう者が手話を使い日常生活や社会生活を安心して営むことができる社会の実現に寄与するため、手話が言語であるという認識の下、手話の普及その他の手話を使用しやすい環境の整備に関する基本理念を定め、県の責務並びに市町村、県民及び事業者の役割を明らかにするとともに、県の施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な基本的事項を定める「福岡県手話言語条例」を制定しました。

 

条例の概要

 

障害者の権利に関する条約(平成二十六年条約第一号)において、言語には手話その他の形態の非音声言語が含まれることが明記され、また、障害者基本法(昭和四十五年法律第八十四号)においても、言語には手話が含まれることが明記されている。

 

一方で、我が国では、過去の一時期にろう学校において手話の使用が制限されるなど、手話の使用について様々な制約を受けてきた歴史があり、手話が言語であることに対する理解が十分であるとは言えない。

 

手話は言語であり、意思疎通にとどまらず、豊かな思考と人間性を涵養し、知的かつ心豊かな生活を送るために無くてはならない文化的所産である。

 

こうした認識の下、手話を言語として明確に位置付けるとともに、ろう者が手話を使い日常生活や社会生活を安心して営むことができる社会の実現を目指し、この条例を制定する。

 

1 目的

 

この条例は、手話が言語であるという認識の下、手話の普及その他の手話を使用しやすい環境の整備に関する基本理念を定め、県の責務並びに市町村、県民及び事業者の役割を明らかにするとともに、県の施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な基本的事項を定め、もってろう者が手話を使い日常生活や社会生活を安心して営むことができる社会の実現に寄与することを目的とする。

 

2 定義

 

「聴覚障がいのある人」、「ろう者」、「聴覚障がいのある児童等」、「事業者」の用語を定義。

 

3 基本理念

手話の普及その他の手話を使用しやすい環境の整備は、手話が言語であるという認識の下、ろう者が手話を使い日常生活や社会生活を安心して営むことができる社会の実現を旨として行われなければならない。

 

4 県の責務、市町村・県民・事業者の役割

 

県は、基本理念にのっとり、市町村その他の関係機関と連携して、ろう者が日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものの除去について必要かつ合理的な配慮を行い、手話の普及その他の手話を使用しやすい環境の整備を推進する。また、基本理念に対する県民の理解を深めるため、必要な啓発を行う。

 

市町村は、基本理念にのっとり、手話の普及その他の手話を使用しやすい環境の整備に努める。

 

県民は、基本理念について理解を深めるよう努める。

 

事業者は、基本理念にのっとり、ろう者に対しサービスを提供するとき、又はろう者を雇用するときは、手話の使用に関して配慮するよう努める。

 

5 施策の推進

 

県は、基本理念にのっとり、手話の普及その他の手話を使用しやすい環境の整備のために必要な施策を総合的かつ計画的に推進するものとする。

 

県は、前項の施策を講ずるに当たっては、ろう者及び手話通訳者等の意見を聴くものとする。

 

6 手話を獲得する機会の確保等

 

県は、市町村その他の関係機関と連携し、聴覚障がいのある人が乳幼児期からその家族等とともに手話を獲得し、又は習得する機会を確保するよう努めるものとする。

 

7 手話を学ぶ機会の確保

 

県は、県民が手話を学ぶ機会を確保するよう努めるものとする。

 

県は、その職員が手話に対する理解を深めることができるよう、手話を学ぶ機会の確保を図るものとする。

 

8 手話を用いた情報発信

 

県は、ろう者が県政に関する情報を速やかに取得することができるよう、必要に応じて、情報通信技術を活用した手話を用いて情報発信を行うものとする。

 

9 手話通訳者の確保、養成等

 

県は、ろう者が手話通訳者の派遣等意思疎通を図るための支援を受けられるよう、市町村その他の関係機関と連携して、手話通訳者及びその指導者の確保、養成並びに手話技術及び専門性の向上に対する支援に努めるものとする。

 

10 学校における手話の普及

 

聴覚障がいのある児童等が通学する学校の設置者は、聴覚障がいのある児童等が手話を学び、かつ、手話で学ぶことができるよう、教職員の手話の習得及び習得した手話に関する技術の向上のために必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

 

聴覚障がいのある児童等が通学する学校の設置者は、聴覚障がいのある児童等及びその家族等に対する手話に関する学習の機会の提供並びに教育に関する相談及び支援に関する措置を講ずるよう努めるものとする。

 

11 相談支援の取組

 

県は、市町村その他の関係機関と連携して、聴覚障がいのある人及びその家族等に対して、乳幼児期からの切れ目ない相談支援体制の整備を図るものとする。

 

12 事業者への支援

 

県は、事業者が行う第七条の取組に対して、情報の提供その他の必要な支援を行うよう努めるものとする。

 

13 手話に関する調査研究等への協力

 

県は、ろう者、手話通訳者等が手話の発展に資するために行う手話に関する調査研究及びその成果の普及に協力するものとする。

 

14 災害時における措置

 

県は、災害その他の非常事態において、ろう者が必要な情報を迅速かつ的確に取得し、円滑に意思疎通を図ることができるよう、市町村その他の関係機関と連携して、必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

 

15 財政上の措置

 

県は、手話に関する施策を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。

 

施行期日

この条例は、令和5年4月1日から施行する。

 

 

福岡県手話言語条例

令和五年三月二十四日

福岡県条例第十五号

目次

 前文

 第一章 総則(第一条―第七条)

 第二章 手話を使用しやすい環境の整備(第八条―第十八条)

 附則

 

障害者の権利に関する条約(平成二十六年条約第一号)において、言語には手話その他の形態の非音声言語が含まれることが明記され、また、障害者基本法(昭和四十五年法律第八十四号)においても、言語には手話が含まれることが明記されている。

一方で、我が国では、過去の一時期にろう学校において手話の使用が制限されるなど、手話の使用について様々な制約を受けてきた歴史があり、手話が言語であることに対する理解が十分であるとは言えない。

手話は言語であり、意思疎通にとどまらず、豊かな思考と人間性を涵養し、知的かつ心豊かな生活を送るために無くてはならない文化的所産である。

こうした認識の下、手話を言語として明確に位置付けるとともに、ろう者が手話を使い日常生活や社会生活を安心して営むことができる社会の実現を目指し、この条例を制定する。

 

   第一章 総則

 

(目的)

第一条 この条例は、手話が言語であるという認識の下、手話の普及その他の手話を使用しやすい環境の整備に関する基本理念を定め、県の責務並びに市町村、県民及び事業者の役割を明らかにするとともに、県の施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な基本的事項を定め、もってろう者が手話を使い日常生活や社会生活を安心して営むことができる社会の実現に寄与することを目的とする。

 

(定義)

第二条 この条例において、次の各号に掲げる用語の定義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

 一 聴覚障がいのある人 聴覚の機能の障がいがある者であって、当該障がい及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。

 二 ろう者 聴覚障がいのある人のうち、手話を使い日常生活又は社会生活を営む者をいう。

 三 聴覚障がいのある児童等 聴覚障がいのある人のうち、幼児、児童又は生徒をいう。

 四 事業者 法人その他の団体(国、独立行政法人等(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成二十五年法律第六十五号)第二条第五号に規定する独立行政法人等をいう。)、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。)及び事業を営む個人をいう。

 

 (基本理念)

第三条 手話の普及その他の手話を使用しやすい環境の整備は、手話が言語であるという認識の下、ろう者が手話を使い日常生活や社会生活を安心して営むことができる社会の実現を旨として行われなければならない。

 

(県の責務)

第四条 県は、前条の基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、市町村その他の関係機関と連携して、ろう者が日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものの除去について必要かつ合理的な配慮を行い、手話の普及その他の手話を使用しやすい環境の整備を推進するものとする。

2 県は、基本理念に対する県民の理解を深めるため、必要な啓発を行うものとする。

 

(市町村の役割)

第五条 市町村は、基本理念にのっとり、手話の普及その他の手話を使用しやすい環境の整備に努めるものとする。

 

(県民の役割)

第六条 県民は、基本理念について理解を深めるよう努めるものとする。

 

(事業者の役割)

第七条 事業者は、基本理念にのっとり、ろう者に対しサービスを提供するとき、又はろう者を雇用するときは、手話の使用に関して配慮するよう努めるものとする。

 

   第二章 手話を使用しやすい環境の整備

 

(施策の推進)

第八条 県は、基本理念にのっとり、手話の普及その他の手話を使用しやすい環境の整備のために必要な施策を総合的かつ計画的に推進するものとする。

2 県は、前項の施策を講ずるに当たっては、ろう者及び手話通訳者等の意見を聴くものとする。

 

 (手話を獲得する機会の確保等)

第九条 県は、市町村その他の関係機関と連携し、聴覚障がいのある人が乳幼児期からその家族等とともに手話を獲得し、又は習得する機会を確保するよう努めるものとする。

 

(手話を学ぶ機会の確保)

第十条 県は、県民が手話を学ぶ機会を確保するよう努めるものとする。

2 県は、その職員が手話に対する理解を深めることができるよう、手話を学ぶ機会の確保を図るものとする。

 

(手話を用いた情報発信)

第十一条 県は、ろう者が県政に関する情報を速やかに取得することができるよう、必要に応じて、情報通信技術を活用した手話を用いて情報発信を行うものとする。

 

 (手話通訳者の確保、養成等)

第十二条 県は、ろう者が手話通訳者の派遣等意思疎通を図るための支援を受けられるよう、市町村その他の関係機関と連携して、手話通訳者及びその指導者の確保、養成並びに手話技術及び専門性の向上に対する支援に努めるものとする。

 

(学校における手話の普及)

第十三条 聴覚障がいのある児童等が通学する学校の設置者は、聴覚障がいのある児童等が手話を学び、かつ、手話で学ぶことができるよう、教職員の手話の習得及び習得した手話に関する技術の向上のために必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

2 聴覚障がいのある児童等が通学する学校の設置者は、聴覚障がいのある児童等及びその家族等に対する手話に関する学習の機会の提供並びに教育に関する相談及び支援に関する措置を講ずるよう努めるものとする。

 

(相談支援の取組)

第十四条 県は、市町村その他の関係機関と連携して、聴覚障がいのある人及びその家族等に対して、乳幼児期からの切れ目ない相談支援体制の整備を図るものとする。

 

(事業者への支援)

第十五条 県は、事業者が行う第七条の取組に対して、情報の提供その他の必要な支援を行うよう努めるものとする。

 

 (手話に関する調査研究等への協力)

第十六条 県は、ろう者、手話通訳者等が手話の発展に資するために行う手話に関する調査研究及びその成果の普及に協力するものとする。

 

(災害時における措置)

第十七条 県は、災害その他の非常事態において、ろう者が必要な情報を迅速かつ的確に取得し、円滑に意思疎通を図ることができるよう、市町村その他の関係機関と連携して、必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

 

(財政上の措置)

第十八条 県は、手話に関する施策を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。

 

附 則

 この条例は、令和五年四月一日から施行する。

 

 

 

 

 

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