兵庫県川西市(かわにしし)議会は2022年3月25日、手話が言語であるとの認識に基づき、手話に対する理解の促進と手話を使用しやすい環境の構築に関し、基本理念を定め、市の責務並びに市民及び事業者の役割を明らかにするとともに、手話に関する施策を推進。社会的障壁によって分け隔てられることなく、全ての人が互いに尊重し、支え合う地域共生社会の実現に寄与することを目的とする「川西市手話言語条例」案を可決した。施行は4月1日。
同種の条例は、兵庫県では、加東市、篠山市、神戸市、明石市、三木市、淡路市、丹波市、多可町、穴栗市、小野市、加西市、加古川市、姫路市、宝塚市、西脇市、三田市、芦屋市、たつの市、尼崎市、赤穂市、伊丹市、南あわじ市、朝来市、相生市、高砂市、養父市、猪名川町に次いで28例目。全国では452例目。
条例の制定に伴い、川西市は、以下の施策を遂行するとしている。
環境を整備
手話に対する理解の促進と手話の普及を図るとともに、手話を使用しやすい環境を整備するために必要な施策の推進。
理解の促進、普及
ホームページや広報、パンフレットなどで手話の普及促進を図り、手話やろう者への正しい理解及び配慮を促すための啓発。
手話の習得、
手話を使用しやすい環境の構築のために、市内の団体などと協力して手話講座などを開催や、手話を学習する取り組みの支援。
ろう者の意思疎通を支援する者の確保など
手話通訳者の育成・確保など、手話を習得し、手話を必要とするかたを支援する人材を養成。
情報保障
市が主催するタウンミーティングや各種イベントで、できる限り手話通訳者などの配置。
災害時の避難所などでの情報の提供に当たって、ろう者に寄り添う、合理的な配慮に基づいた支援。
市民の役割
市民には、手話やろう者に対する理解を深め、手話の普及や利用の促進に関して市が推進する施策への協力を要請。
地域共生社会をめざして
ろう者は、外見からは障がいがあると気づいてもらえず、誤解されることがあり、また、駅や病院など外出先で、音声による案内が聞こえず、必要な情報が得られないことがある。障がいの有無にかかわらず、全ての人が安心して暮らすことができる豊かな共生社会の実現に向けて、手話やろう者について理解を深める施策の展開。
事業者の役割
事業者には、手話やろう者に対する理解を深め、手話の普及及び利用の促進に関して市が推進する施策に協力を願いや、ろう者が利用しやすいサービスを提供し、ろう者が働きやすい環境を整備するよう要請。
顧客への対応
施設やお店の受付で、耳が聞こえない、聞こえにくいかたに対して、手話や筆談などの音声以外の方法でコミュニケーションを取るよう要請。
職場環境づくり
耳が聞こえない・聞こえにくい従業員と他の従業員が円滑なコミュニケーションを図るために、筆談の利用や簡単な手話の習得など、働きやすい環境づくりに取り組みの要請。
また、条例の施行をうけ、市は同条例制定の背景や目的、ろう者の思いを伝える動画と、条例全文を手話翻訳した動画を作成した。
川西市公式チャンネル(Youtube動画) 音のない世界への理解 ー川西市手話言語条例を制定ー
川西市公式チャンネル(Youtube動画) 川西市手話言語条例 ー手話言語版ー
市は、2021年12月1日から20224年1月7日までパブリックコメントを行い、38人から意見が出された(意見内容と市の検討結果)。
兵庫県南東部の市。大阪府との県境に面する市は、阪神北県民局管轄区域。第56代清和天皇の子孫の源満仲(みなもとのみつなか)が多田神社のある地域に源氏武士団を形成し、後に鎌倉幕府を開く源頼朝など清和源氏(せいわげんじ)の本拠地となることから、市は武門(ぶもん=武士に家系)源氏発祥の地として、市の在住者、ゆかりのある者、市長の認めた者などの中から「源氏ふるさと大使」を任命し、地域振興に取り組んでいる。
市域は地図上ではタツノオトシゴの形に似ている。イメージキャラクター(ゆるキャラ)として金太郎の形をした「きんたくん」が存在する。「ココロにボウカ」の意識を市民に根付かせる救世主として、防火キャラクター「きんすけくん」がある。
また川西市は、人権擁護都市宣言と非核平和都市宣言を宣言している。
人口は、156,016人(男:73,682人/女:82,334人(2021年3月末現在)。
身体障害者の状況は、以下の通り。
川西市手話言語条例
言語は、お互いの意思や感情を伝え、理解し合い、知識を蓄え、文化を創造する上で欠かせないものであり、人類の発展に大きく寄与してきました。
手話は、音声言語である日本語と同様に一つの言語であり、手指や体の動き、表情により視覚的に表現する言語です。ろう者にとって手話は、情報の獲得やコミュニケーションを図る重要な手段であり、自分自身を表現できるかけがえのないものです。
しかしながら、手話は長い間言語として認められず、使用できる環境が整えられなかったことから、ろう者はコミュニケーションを図ることが難しく、十分な情報保障もなされず、多くの不便や不安を感じながら生活してきました。
こうした状況の中、障害者の権利に関する条約や障害者基本法により手話は言語として位置付けられたものの、いまだ手話に対する理解が十分ではないことから、手話やろう者に対する正しい理解を広めていくとともに、手話を必要とする全ての人に手話を使用できる環境を整え、広く普及していくことが求められています。
ここに、手話は言語であることを認識し、手話及びろう者への理解並びに普及の促進により、手話を必要とする方が、普段の買い物や通院といった日常生活から災害時等のあらゆる場面まで、手話を使って生活を送ることができる環境を整え、全ての人が地域で支え合いながら安心していきいきと暮らすことができる地域共生社会の実現をめざし、この条例を制定します。
(目的)
第1条 この条例は、手話が言語であるとの認識に基づき、手話に対する理解の促進及び手話を使用しやすい環境の構築に関し、基本理念を定め、市の責務並びに市民及び事業者の役割を明らかにするとともに、手話に関する施策を推進することにより、社会的障壁によって分け隔てられることなく、全ての人が互いに尊重し、支え合う地域共生社会の実現に寄与することを目的とする。
(定義)
第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(1) ろう者 手話を言語として使用し、日常生活及び社会生活を営む者をいう。
(2) 市民 市内に在住、在勤又は在学する者をいう。
(3) 事業者 市内において事業活動を行う個人又は法人その他の団体をいう。
(基本理念)
第3条 手話に対する理解の促進及び手話の普及は、手話が言語であるとの認識に基づいて、全ての人が手話により意思疎通を図る権利を有すること及び互いの人格と個性を尊重することを基本として行われなければならない。
(市の責務)
第4条 市は、前条に規定する基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、手話に対する理解の促進及び手話の普及を図るとともに、手話を使用しやすい環境を整備するために必要な施策を推進するものとする。
(市民の役割)
第5条 市民は、基本理念にのっとり、手話及びろう者に対する理解を深め、手話の普及及び利用の促進に関して市が推進する施策に協力するよう努めるものとする。
(事業者の役割)
第6条 事業者は、基本理念にのっとり、手話及びろう者に対する理解を深め、手話の普及及び利用の促進に関して市が推進する施策に協力するよう努めるものとする。
2 事業者は、ろう者が利用しやすいサービスを提供するとともに、ろう者が働きやすい環境を整備するよう努めるものとする。
(施策の推進)
第7条 市は、次に掲げる施策を総合的かつ計画的に推進するものとする。
(1) 手話に対する理解の促進及び手話の普及に関する施策
(2) 手話の習得及び学習支援に関する施策
(3) ろう者の意思疎通を支援する者の確保、養成及び処遇等に関する施策
(4) 前3号に掲げるもののほか、市長が必要と認める施策
(情報保障)
第8条 市は、ろう者が市政に関する情報を取得できるよう手話を用いた情報の発信に努めるものとする。
2 市は、手話も含めた災害時の情報提供及び意思疎通の手段の確保に努めるものとする。
3 市は、市が主催する講演会、説明会等において手話通訳者等を配置するよう努めるものとする。
(意見の聴取)
第9条 市長は、手話に関する施策の推進、実施状況及びそれらの見直しに関し、ろう者、手話通訳者その他関係者に意見を聴くものとする。
(委任)
第10条 この条例に定めるもののほか、この条例の施行に関し必要な事項は、市長が別に定める。
付 則
(施行期日)
1 この条例は、令和4年4月1日から施行する。
(見直し)
2 市は、この条例の施行の日から起算して3年ごとに、この条例に基づく手話に対する理解の促進及び手話の普及を図るための施策の実施状況を勘案し、必要な見直しを行うものとする。