2023年3月20日、埼玉県鶴ヶ島市議会は、手話が言語であることの理解促進及び手話の普及に関し、基本理念を定めるとともに、市の責務並びに市民及び事業者の役割を明らかにし、その施策を推進することにより、ろう者とろう者以外の者が互いの人格及び個性を尊重し支え合う共生社会を実現することを目的とする「鶴ヶ島市手話言語条例」案を可決した。施行は4月1日。
同種の条例は、県内では、埼玉県、朝霞市、三芳町、富士見市、三郷市、桶川市、ふじみ野市、久喜市、熊谷市、川口市、蓮田市、秩父市、行田市、本庄市、小鹿野町、横瀬町、長瀞町、皆野町、上尾市、越谷市、伊奈町、川越市、八潮市、北本市、加須市、神川町、鴻巣市、毛呂山町、東松山市、坂戸市、吉川市、美里町、戸田市、白岡市、入間市、深谷市、滑川町、蕨市、草加市、嵐山町、上里町、狭山市についで43例目。全国では476例目。
提案理由=手話が言語であることの理解促進及び手話の普及を図ることにより、全ての市民が互いの人格と個性を尊重し支え合う共生社会を実現するため、この案を提出するものである。
鶴ヶ島市手話言語条例
手話は、音声言語の日本語とは異なる語彙と文法を持つ独自の言語であり、手指や体の動き、表情を使って視覚的に表現する言語である。ろう者は、物事を考え、コミュニケーションを図り、互いの気持ちを理解し合うために、また、知識を蓄え、文化を創造するために必要な言語として、手話を大切に育んできた。
しかし、これまで日本では、手話が言語として認められてこなかったことや、手話を使用することができる環境の整備が遅れていたことなどから、ろう者は、必要な情報を得ることやコミュニケーションをとることに多くの不便や不安を感じながら生活してきた歴史がある。
こうした中で、障害者の権利に関する条約や障害者基本法で手話が言語として位置づけられたが、いまだ手話に対する理解が社会において深まっているとは言えない。
また、障害者の情報の取得及びコミュニケーション手段は、音声言語の日本語を前提に整備される傾向がある。
私たちは、手話が言語であるとの認識に基づき、手話の理解と手話の普及をもって、全ての市民が互いの人格と個性を尊重し合う共生社会の実現を目指し、この条例を制定する。
(目的)
第1条 この条例は、手話が言語であることの理解促進及び手話の普及に関し、基本理念を定めるとともに、市の責務並びに市民及び事業者の役割を明らかにし、その施策を推進することにより、ろう者とろう者以外の者が互いの人格及び個性を尊重し支え合う共生社会を実現することを目的とする。
(定義)
第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(1) 障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害及び高次脳機能障害を含む。)、難病(治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病をいう。)に起因する障害その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。
(2) ろう者 聴覚に障害があり手話を第一言語として日常生活又は社会生活を営む者をいう。
(3) 社会的障壁 障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で妨げとなるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。
(4) 合理的配慮 社会的障壁を取り除くために、状況に応じて行われる配慮であって、可能な範囲で最大限提供されるべきものをいう。
(5) 事業者 市内において事業活動を行う個人及び法人その他の団体をいう。
(基本理念)
第3条 手話が言語であることの理解促進及び手話の普及は、手話が言語であるとの認識に基づき、手話により円滑にコミュニケーションを行う権利を尊重し、ろう者とろう者以外の者が互いに人格及び個性を尊重し合うことを基本として行わなければならない。
(市の責務)
第4条 市は、前条に定める基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、ろう者に対する合理的配慮を提供するとともに、手話が言語であることの理解促進、手話の普及及び手話を使用しやすい環境の整備に関する施策を推進するものとする。
(市民の役割)
第5条 市民は、基本理念に対する理解を深めるとともに、市の施策に協力するよう努めるものとする。
(事業者の役割)
第6条 事業者は、基本理念に対する理解を深めるとともに、市の施策に協力するよう努めるものとする。
2 事業者は、ろう者が手話を使用しやすい環境を整備するための合理的配慮を提供するよう努めるものとする。
(施策の推進)
第7条 市は、次に掲げる施策を推進するものとする。
(1) 手話が言語であることの理解促進及び手話の普及に関する施策
(2) ろう者が手話を使用しやすい環境の整備に関する施策
(3) 手話通訳者の養成及び確保に関する施策
(4) 災害その他非常の事態における、ろう者の情報の取得及びコミュニケーション手段の確保に関する施策
(5) 前各号に掲げるもののほか、この条例の目的を達成するために市長が必要と認める施策
2 市は、必要に応じて施策の見直しを行うものとする。
(意見の聴取)
第8条 市は、前条第1項各号に掲げる施策に関し、ろう者その他の関係者の意見を聴き、その意見を当該施策に反映するよう努めるものとする。
(委任)
第9条 この条例の施行に関し必要な事項は、市長が別に定める。
附 則
この条例は、令和5年4月1日から施行する。